有機溶剤とは

有機溶剤とは、物質を溶かす性質をもつ常温で液体の有機化合物を言い、蒸発しやすく脂肪を溶かすことから誤った取り扱いをすると皮膚や呼吸器を通して体内に吸収され急性中毒などの健康障害を発生させる物質をいいます。
対象となる物質は有機溶剤中毒予防規則(有機則)で定められている44種類あり、毒性が強いものから順に第1種、第2種、第3種に区分されています。

※有機則の対象物質は平成26(2014)年11月の有機則改正以前は54種類ありましたが、クロロホルムなどの発がん性のある物質(10種類)が有機則からより管理の厳しい特定化学物質障害予防規則(特化則)に移行しました。
詳細は特定化学物質(特化物)の項をご参照ください。

有機溶剤中毒予防規則の対象となる有機溶剤一覧

■第1種有機溶剤(2種類)

物質名CAS No.沸点参考IARCがん原性指針
1,2-ジクロルエチレン(別名二塩化アセチレン)540-59-060℃  
二硫化炭素75-15-046℃  

■第2種有機溶剤(35種類)

物質名CAS No.沸点参考IARCがん原性指針
アセトン67-64-156℃  
イソブチルアルコール78-83-1108℃  
イソプロピルアルコール67-63-083℃3 
イソペンチルアルコール(別名イソアミルアルコール)123-51-3132℃  
エチルエーテル60-29-735℃  
エチレングリコールモノエチルエーテル(別名セロソルブ)110-80-5135℃  
エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(別名セロソルブアセテート)111-15-9156℃  
エチレングリコールモノ-ノルマル-ブチルエーテル(別名ブチルセロソルブ)111-76-2171℃3 
エチレングリコールモノメチルエーテル(別名メチルセロソルブ)109-86-4125℃  
オルト-ジクロルベンゼン95-50-1180℃3 
キシレン1330-20-7138℃3 
クレゾール1319-77-3191℃  
クロルベンゼン108-90-7132℃  
酢酸イソブチル110-19-0118℃  
酢酸イソプロピル108-21-489℃  
酢酸イソペンチル(別名酢酸イソアミル)123-92-2142℃  
酢酸エチル141-78-677℃  
酢酸ノルマル-ブチル123-86-4126℃  
酢酸ノルマル-プロピル109-60-4102℃  
酢酸ノルマル-ペンチル(別名酢酸ノルマル-アミル)628-63-7149℃  
酢酸メチル79-20-957℃  
シクロヘキサノール108-93-0161℃  
シクロヘキサノン108-94-1156℃3 
N,N-ジメチルホルムアミド68-12-2153℃3
テトラヒドロフラン109-99-966℃  
1,1,1-トリクロルエタン71-55-674℃3
トルエン108-88-3111℃3 
ノルマルヘキサン110-54-369℃  
1-ブタノール71-36-3117℃  
2-ブタノール78-92-2100℃  
メタノール67-56-165℃  
メチルエチルケトン78-93-380℃  
メチルシクロヘキサノール25639-42-3174℃  
メチルシクロヘキサノン1331-22-2163℃  
メチル-ノルマル-ブチルケトン591-78-6126℃  

■第3種有機溶剤(7種類)

物質名沸点参考IARCがん原性指針
ガソリン38~204℃2B 
コールタールナフサ(ソルベントナフサを含む。)120~200℃  
石油エーテル35~60℃  
石油ナフサ30~170℃  
石油ベンジン50~90℃  
テレビン油149℃  
ミネラルスピリット(ミネラルシンナー、ペトロリウムスピリット、ホワイトスピリット及びミネラルターペンを含む。)130~200℃  



特定化学物質(特化物)とは

特定化学物質(特化物)とは、労働者に健康障害を発生させる(可能性が高い)物質として労働安全衛生法施行令別表第3で定められた化学物質をいいます。
有害性のレベルに応じて3つに分類されており、特化則で定められています。
第1類物質が7種類、第2類が60種類、第3類が8種類合計75種類が規制の対象となります。

有機溶剤はすべて液体ですが、特化物は液体とは限りません。

特化物は健康障害を発生させる可能性が高い物質として厚生労働省が認めたもので、局所排気装置のほか作業環境測定の定期的実施や用後処理装置の設置など規制が厳しくなっています。
特化物では環境測定への対応として室内全体の換気にも気を配る必要があります。
特に外付け式フードを採用する場合は注意が必要です。

特別有機溶剤

「有機溶剤中毒予防規則(有機則)」の対象から、より規制の厳しい「特定化学物質障害予防規則(特化則)」へ移行した物質は全部で10種類あります。
国がこれら10物質の「発がん性のおそれ」を重く見たことで、平成26(2014)年11月にまとめて特化則へと移行されました。
現在これらは特化則の中で特別有機溶剤(特別管理物質)という枠組みに指定されています。

有機則から特化則へ変更(移行)になった10物質

現在も塗装や金属洗浄、プラスチック製造の現場でよく使われている、極めてメジャーな溶剤が含まれています。

1.ジクロロメタン(二塩化メチル)
金属洗浄剤、剥離剤、塗料の溶剤など(胆管がんの原因として問題になり移行)

2.メチルイソブチルケトン(MIBK)
塗料(シンナー)、インキ、接着剤の溶剤

3.スチレン
FRP(強化プラスチック)の原料、樹脂の希釈剤

4.クロロホルム
医薬品製造、フッ素樹脂の原料、各種溶剤

5.トリクロロエチレン
金属製品の脱脂洗浄など

6.テトラクロロエチレン(パークロルエチレン)
ドライクリーニング溶剤、金属洗浄など

7.1,2-ジクロロエタン(二塩化エチレン)
塩化ビニル樹脂の原料など

8.1,1,2,2-テトラクロロエタン(四塩化アセチレン)
化学製品の合成原料など

9.四塩化炭素
フロン類の原料など

10.1,4-ジオキサン
化学品の反応溶剤、表面処理剤など

有機則から特化則へ変更(移行)に変わったことで何が厳しくなった?

これらの物質は特化則へ引き上げられたからといって化学的な性質が変わる訳ではありません。
そのため、事業者には通常の有機則に加えて特化則に基づいた以下のような義務が追加されました。

1 作業記録の作成(特化則第38条の4)
常時作業に従事する労働者について1カ月以内ごとに次の事項の記録が必要
➀ 労働者の氏名
➁ 従事した作業の概要及び当該作業に従事した期間
➂ 特別管理物質により著しく汚染される事態が生じたときは、その概要及び事業者が講じた応急の措置の概要

2 記録の保存の延長(特化則第36条、36条の2、38条の4、40条)
有害性(発がん性)の遅発性の影響を踏まえ、次の書類の30年間の保存が必要
(なお、記録の保存は、書面の保存に代えて電磁的記録による保存が可能)
➀ 健康診断個人票
➁ 作業環境測定の記録
➂ 作業環境測定の評価の記録
➃ 作業記録

3 作業環境測定
6か月以内ごとに1回、作業環境の空気中の濃度測定の実施

4 特定化学物質健康診断(特化則第41条の2、有機溶剤中毒予防規則第29条準用)
6か月以内ごとに1回、対象業務に従事する労働者に対して特殊健康診断の実施

5 有害性等の掲示(特化則第38条の3)
作業に従事する労働者が見やすい箇所に次の事項の掲示が必要
➀ 名称
➁ 人体に及ぼす作用
➂ 取扱上の注意事項
➃ 使用保護具

6 管理区域の明確化と設備の設置(特化則第7条、8条)
揮発したガスを逃さないための局所排気装置の設置や、関係者以外の立ち入り禁止などの措置が必要

7 作業主任者の選任(特化則第27条)
有機溶剤作業主任者技能講習の修了者のうちから、作業主任者を選任

その他にも事業廃止時の記録の報告、配置転換後の健康診断等が追加されました。

参考

・厚生労働省『クロロホルムほか9物質を取扱う時には~記録の保存を延長し、作業記録を作成する必要があります~』(PDF)
・厚生労働省『発がん性のある有機溶剤を取扱う事業者の方へ』(PDF)
・厚生労働省「健康診断を実施しましょう(PDF)」
・厚生労働省『化学物質による健康障害防止指針(がん原性指針)について』
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_07948.html




今後は厚生労働省が健康被害との因果関係を認めた物質を特化物として増やしていく傾向にあります。
2022年春に新たに加わった溶接ヒュームのように、健康被害との因果関係が判明した物質に対していきなり特化物として規制対象になる方向です。

有機溶剤、特化物を合わせ129種類が有機則、特化則の規制を受けていますが、産業界には多くの化学物質が使われています。
規制を受けていない化学物質に変えることで局所排気装置の設置をしなくて済む場合もあるため、使用する化学物質の製品安全シートにて局所排気装置が必要か否かを確認する必要があります。

化学物質による労働災害防止のための新たな規制について

厚生労働省は化学物質による労働災害を防止するため、令和4年(2022年)5月31日に労働安全衛生法関係法令を改正し、新たな化学物質管理の制度が導入されました。2023年4月1日から段階的に施工されています。

日本では化学物質に起因した労働災害の発生件数が高止まりしており、その中には重篤な災害も含まれています。
また小規模事業場では法令順守が不十分な傾向にあり、対策の遅れが指摘されておりました。

日本で化学物質を原因とした労働災害が減らない理由は複数ありますが、化学物質の危険性・有害性の伝達を義務とする物質数が少なかったことが挙げられます。
そこで、今後も危険性・有害性を示すことが明らかになった物質に対して段階的に情報伝達を義務化していくことが定められました。

一方、欧米をはじめとする諸外国では化学物質管理は事業者が自律的に管理することがスタンダードになりつつあります。

自立的な管理(リスクアセスメント)とは危険性・有害性を示す化学物質の取扱い方法にあわせた対策を事業者自らが決めることを指します。
自律的な化学物質管理において事業者は、リスクアセスメントの結果に基づき、リスク低減措置を実施し、結果の記録保存と労働者への周知を行うことが求められています。

(画像をクリックするとPDFが開きます)


(参考:厚生労働省ホームページ
『化学物質による労働災害防止のための新たな規制について~労働安全衛生規則等の一部を改正する省令(令和4年厚生労働省令第91号(令和4年5月31日公布))等の内容~』)

令和8(2026)年4月より、リスクアセスメント対象物は危険性・有害性が確認されたすべての物質(約2,900物質)へと大幅に拡大されました。
法改正の背景と化学物質管理については、以下の記事をご参照ください。
労働安全衛生法改正の背景と化学物質管理

リスクアセスメント対象物質について

リスクアセスメント対象物質とは、労働安全衛生法に基づき、危険性や有害性が確認され事業者によるリスクアセスメント(危険性・有害性の事前調査・評価)の実施が義務付けられている化学物質を指します。

対象となる主な物質と事業者の義務については以下のとおりです。

1.対象となる化学物質

国によるGHS分類(化学品の危険有害性分類)等に基づき、危険・有害のおそれがあるとして厚生労働省が指定した物質です。
対象物質は法改正により段階的に拡大されており、現在では約2,900種類にのぼります。
原則として、メーカーから提供される「安全データシート(SDS)」に該当する旨が記載されています。

2.事業者に義務付けられている3つの対応

事業者は対象物を取り扱う際、以下の対応が義務付けられています。

①リスクアセスメントの実施
その物質によって生じる可能性のある危険や健康被害の程度を予測・評価します。

②SDSの交付と確認
譲渡または提供する際に安全データシート(SDS)の交付・受領を行います。

③ラベルの表示
容器や包装に危険性を示すラベルを表示します。

3.リスクアセスメント実施後の対応

評価の結果、労働者への健康被害や事故のリスクが高いと判断された場合は、保護具の着用、局所排気装置の設置、あるいは危険性の低い物質への代替など、具体的な「リスク低減措置」を講じる必要があります。

参考までに、以下の記事もご参照ください。
・保護具着用管理責任者
・局所排気装置について
・当社の局所排気装置の施工事例

また、使用している化学物質が対象物に該当するかどうかは、以下の関連サイトで確認することができます。

・厚生労働省 職場のあんぜんサイト『ラベル・SDS義務対象物質一覧・検索』
(https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/gmsds640.html)

・職場の化学物質管理 ケミサポ『1-3.リスクアセスメント対象物に該当するか確認』
(https://cheminfo.johas.go.jp/step/1-3.html)

有機溶剤・特定化学物質・リスクアセスメント対象物質の関係性

ここでは「有機溶剤」「特定化学物質」「リスクアセスメント対象物質」の関係性について整理します。

結論から言うと、この3物質は「リスクアセスメント対象物質」という大きな枠組みの中に「有機溶剤」や「特定化学物質」が含まれているという関係性です。
これらはすべて労働安全衛生法に基づく規制対象ですが、「規制の厳しさとアプローチ(管理方法)」が異なります。

1.3つの物質の関係性

それぞれの関係は以下のような包括関係(ピラミッド構造)になっています。

・リスクアセスメント対象物質(約2,900種類):【広域の枠組み】
危険性、有害性がある化学物質の総称です。
この中に、特にリスクが高い物質として「有機溶剤」や「特定化学物質」が指定されています。

・有機溶剤(約50種類)/特定化学物質(約80種類):【特別に厳しい規則】
リスクアセスメント対象物質の中でも「特に中毒やがんなどの健康被害を起こすリスクが極めて高い物質」として、個別に抜き出されたグループです。

2.管理方法(法律)の具体的な違い

項目リスクアセスメント対象物質(全体)有機溶剤・特定化学物質(特別則)
該当する法律労働安全衛生法(一般規則)有機則(有機溶剤中毒予防規則)
特化則(特定化学物質障害予防規則)          
規制の性質自律的な管理
(会社が自分でリスクを調べ、自ら対策を決める)
個別具体的な規制
(国が定めた具体的なルールを「そのまま」守る義務)
具体的な義務・SDS(安全データシート)の確認
・リスクアセスメントの実施
・ばく露を最小限に抑える対策
上記の義務に加えて、さらに以下が必須:
作業主任者の選任
・定期的な特殊健康診断の実施
・局所排気装置の設置や定期点検

3.なぜこのような違いがあるのか?

日本の化学物質管理は従来の「国が特定の物質(有機溶剤や特定化学物質など)だけどピンポイントで厳しく規制する」という方法から、「危険なものはすべて事業者自身でリスクを調べて自律的に管理する」という方針へと大きく移行しています。

そのため、まずは「リスクアセスメント対象物質」として網羅的に全体の危険性をチェックした上で、すでに「有機則」や「特化則」の対象になっている強い有害物質についてはこれまで通り(あるいはそれ以上)の厳格な個別ルールを上乗せして守る、という二段構えのルールになっています。

4.自社で取り扱う化学製品が法規制の対象かを調べる方法

お手元にある化学製品の法律上の扱いを具体的に調べたい場合は、製品の安全データシート(SDS)の「適用法令」の欄を確認するとスムーズです。
また、以下の関連サイトでも確認することができます。

・厚生労働省 職場のあんぜんサイト『ラベル・SDS義務対象物質一覧・検索』
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/gmsds640.html

・厚生労働省 職場のあんぜんサイト『化学物質のリスクアセスメント実施支援』
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/user/anzen/kag/ankgc07.htm

・職場の化学物質管理 ケミサポ『1-3.リスクアセスメント対象物に該当するか確認』
https://cheminfo.johas.go.jp/step/1-3.html



法令上の正式な分類を確認したい場合は、労働安全衛生法施工例の「別表」を参照することでも確認できます。

分類参照すべき法令の場所特徴
有機溶剤労働安全衛生法施行令 別表第6の2アセトン、トルエン、キシレンなど44種類が定義されています。          
特定化学物質労働安全衛生法施行令 別表第3第1類(ガン等)、第2類(慢性障害)、第3類(急性中毒等)に分かれています。
リスクアセスメント対象物質労働安全衛生法施行令 別表第9改正により大幅に拡大された、ラベル表示・SDS交付が必要な物質群です。

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特定化学物質、有機溶剤の関連情報もぜひご覧ください。(局所排気装置ページ)
https://www.tasaki-s.co.jp/exhaust


参考

・厚生労働省「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律(令和7年法律第33号)」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/anzen/an-eihou/index_00001.html

・厚生労働省 労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律(令和7年法律第33号)の概要(PDF)
https://www.mhlw.go.jp/content/11300000/001497667.pdf

・厚生労働省 労働安全衛生法及び作業環境測定法改正の主なポイントについて(PDF)
https://www.mhlw.go.jp/content/11300000/001513749.pdf

・厚生労働省「化学物質による労働災害防止のための新たな規制について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000099121_00005.html

・厚生労働省 令和4年度「職場における化学物質規制の理解促進のための意見交換会」
『労働安全衛生法の新たな化学物質規制について〜ラベル・SDS・リスクアセスメントを中⼼に〜』(PDF)

https://www.mhlw.go.jp/content/11305000/001043125.pdf

・職場の化学物質管理 ケミサポhttps://cheminfo.johas.go.jp/
独立行政法人労働者健康安全機構 独立安全衛生総合研究所が運営するサイトです。
主に化学物質管理者として活躍される方向けに、この新たな化学物質規制の多くが施行される令和6年(2024年)4月1日までに、事業者が自律的化学物質管理を行うにあたって改めて確認すべきこと、準備を進めるべきことが分かりやすく掲載されています。

・職場の化学物質管理の道しるべ ケミガイドhttps://chemiguide.mhlw.go.jp/
厚生労働省が運営するサイトです。
令和6年4月から労働安全衛生法の政省令改正により化学物質が変わるにあたって、職場で使用する身近な商品や製品にも化学物質管理が必要になりました。
実際に職場で発生した具体的な労働災害の事例と前述したケミサポ(職場の化学物質管理 ケミサポ)へのリンク、無料相談窓口が掲載されています。

・厚生労働省『化学物質による労働災害防止のための新たな規制について~労働安全衛生規則等の一部を改正する省令(令和4年厚生労働省令第91号(令和4年5月31日公布))等の内容~』
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000099121_00005.html