労働安全衛生法は令和7(2025)年5月14日に改正されました。
今回の改正(正式名称:労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律)はこれまでの省令ベースの改正を法的に裏付け、化学物質対策を根本から強化するものです。

本法における化学物質対策は、2022年から危険性・有害性が確認されたすべての化学物質を対象に「自律的な管理」と銘打って大きく変更されてきました。
それは政令や省令など細かなルールの改正の積み重ねによるものでしたが、ここにきてようやく法律そのものが改正されることになったのです。
本法の改正点は多岐にわたり、化学物質対策以外の対策も強化されています。

今回は改正法の中でも、化学物質対策の改正について詳しくお伝えします。


1. 労働安全衛生法改正の概要

これまでの労働安全衛生法(安衛法)は高度経済成長期の「工場や建設現場で会社に雇用されて働く労働者」を主な対象として設計されてきました。
しかし現代の多様な働き方には対応しきれなくなっており、令和7(2025)年5月14日に労働安全衛生法の改正が公布され、令和8(2026)年1月1日から段階的に施行されてきました。

1. 個人事業者等に対する安全衛生対策の推進 (R7.5.14~)

現代ではUber Eatsの配達員やITフリーランス、建設業の一人親方など「雇用されない働き方」が急増しています。
そうした個人事業者(フリーランス)への保護が拡大されます。
これまで法の対象外になりがちだった個人事業者を、労働者と同等の「保護対象」かつ「義務主体」と位置付けました。

2. 職場のメンタルヘルス対策の推進 (公布後3年以内に政令で定める日から施工)

労働安全衛生調査(令和4年)によると、仕事に強い不安やストレスを感じる労働者は約8割にのぼります。
これまで努力義務だった従業員50人未満の小規模事業場においても、ストレスチェックの実施と医師による面接指導が義務化されます。
国によるマニュアル作成や、地域産業保健センター(地さんぽ)の体制拡充などの支援も並行して行われます。

3. 化学物質による健康障害防止対策等の推進

近年、法令で禁止されていない物質による胆管がん事案(大阪の印刷会社など)が多発しました。
そうした事案を鑑みて化学物質管理が「自律的管理」へ移行します。

➡ 改正の背景やポイントについては次の項で詳しく解説いたします。

4. 機械等による労働災害の防止の促進等 (R8.4.1施行)

ボイラーやクレーン等の特定機械の検査は、かつては行政主体でした。
民間の登録機関が実施できる範囲を拡大することで行政コストを抑えつつ検査の迅速化を図ります。
また、民間開放に伴う「手抜き検査」や不正を防ぐため、欠格事由の厳格化や罰則を強化し行政による監督権限を維持しています。

5. 高齢者の労働災害防止の推進 (R8.4.1施行)

少子高齢化により65歳以上の就業者数は過去最多を更新し続けています。
身体機能や体力の変化に配慮し、高齢者が安全に働ける作業環境の整備や管理を行うことが事業者の努力義務となります。
企業に対してハード面(段差解消や照明確保)とソフト面(体調管理や教育)の両面で対策を促し、国が「指針」を示すことで現役世代が長く健康に働ける社会基盤を構築します。

6. 治療と仕事の両立支援の推進 (R8.4.1施行)

疾病を抱える労働者が治療を受けながらいきいきと働き続けられるよう、必要な措置を講じることが事業者の努力義務となりました 。
今後、国が定める「適切かつ有効な実施を図るための指針」に基づき、各事業場において具体的な支援体制の整備や環境づくりに取り組むことが求められます 。


2. 改正の背景:なぜ化学物質管理は「自律的管理」への転換が必要なのか?

これまでの日本の化学物質対策は、国が特定の物質(約120物質)を「危険」と指定し、一律のルール(特化則や有機則など)を課す「法令準拠型」でした。
しかし数万種類におよぶ化学物質の普及に対し国の規制は後追いにならざるを得ず、「規制されていない物質」によるがんや健康障害が相次いで発生しました。

この限界を突破するため、物質の多様化や国際的な潮流に従い「危険性があるすべての物質に対し、事業者が自らリスクを評価し対策を決定する」=『自律的管理』への転換が決まりました。
これは国が指定した物質だけでなく、事業者自身が取り扱う化学物質のリスクを特定し適切な管理を行う責任を持つということでもあります。
この方針に基づき、SDS(安全データシート)の整備リスクアセスメントの実施がより多くの事業者に義務付けられるようになりました。




出典:厚生労働省「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律(令和7年法律第33号)


3. 化学物質対策における4つの重要改正ポイント

令和8(2026)年4月より、リスクアセスメント対象物は危険性・有害性が確認されたすべての物質(約2,900物質)へと大幅に拡大されました。
これに伴い、以下の義務が厳格化されます。


①SDS(安全データシート)通知の履行確保と「罰則」の新設 (公布後5年以内に政令で定める日から施行)



出典:厚生労働省「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律(令和7年法律第33号)

これまでSDS(安全データシート)の交付が義務付けられていたのは労働安全衛生法で指定された約300物質に限られていました。
しかし今回の法改正により、これからは危険性・有害性が確認されたすべての化学物質が対象となります。
製造・譲渡・提供を行う事業者はSDSの内容を最新化し、相手方へ適切に伝達する義務があります。

危険性・有害性が確認されたすべての化学物質について、譲渡・提供者(メーカー・卸売等)に対し容器等へのラベル表示と、SDS(安全データシート)の交付義務違反への罰則が新たに設けられました
また、通知事項に変更があった場合の再通知も義務化(努力義務から格上げ)されます。

●化学物質情報の検索
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen_pg/KAG_FND.aspx

●表示・通知対象物質(ラベル表示・SDS交付義務対象物質)の一覧・検索
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/gmsds640.html
(厚生労働省 職場のあんぜんサイト)


②「化学物質管理者」の選任義務 (R6.4.1施行)

令和6(2024)年4月1日より、リスクアセスメント対象物を扱うすべての事業場で、管理の司令塔となる「化学物質管理者」の選任が義務付けられています。
今回の法改正に伴い、これまで対象外だった事業場でも化学物質管理者の選任が必要になってきます。

化学物質管理者とは、化学物質による労働災害を防ぐためリスクアセスメント対象物(現在約2,900物質)を製造・取り扱うすべての事業場で選任が義務付けられている「化学物質管理の責任者」です。

主に以下の実務を統括します。
①SDS(安全データシート)に基づき現場の危険性を評価
②評価結果に基づき、設備の改善や保護具(マスク・手袋等)の選定
③化学物質の危険性や正しい取扱い方法の周知
④容器へのラベル表示や最新のSDSが現場に備え付けられているかの確認

【現場の体制】作業主任者との役割分担

「戦略・判断」を担う化学物質管理者に対し、現場で「直接指揮」を行うのが有機溶剤作業主任者です。
管理者が決めた対策を、作業主任者が現場で徹底させるという強力な連携体制が不可欠です。

詳細な違いについては以下のリンクをご参照ください。
「有機溶剤作業主任者と化学物質管理者の違い」


③個人ばく露測定の義務化(R8.10.1施行)

作業環境そのものの測定に加え、労働者が実際に吸い込んでいる量を測る「個人ばく露測定」が作業環境測定の一部として位置づけられました。
測定は、必要な講習を修了した作業環境測定士などの有資格者が行う必要があります。

これまでは作業場所を測定していましたが、改正後は作業者ごとのばく露量を測定することでリスクアセスメントの精度を高めることができます。

また、上記の化学物質管理者とセットで覚えるべきなのが「保護具着用管理責任者」です。
リスクアセスメントの結果に基づき、「保護具(マスク等)」の選定や現場で正しく選定・使用・保守されているかの管理、その他保護具の管理に関する業務を行います。
令和6(2024)年4月の労働安全衛生法改正により、リスクアセスメント対象物(化学物質)を取り扱う全事業場で選任が義務化されています。

詳しくは以下のリンクをご参照ください。
「保護具着用管理責任者」


④営業秘密の保護と情報の透明性 (R8.4.1施行)

成分名が営業秘密の場合、有害性が低い物質に限り「代替化学名」での通知が認められます。
ただし、医師が治療のために開示を求めた場合は直ちに実成分名を開示することが義務付けられています。


4.違反に対する罰則の強化

今回の法改正で特に注目すべき点は「情報通知義務(SDS)への罰則の新設」「自律的な管理体制の厳格化」です。

これまでSDS(安全データシート)の交付や情報の通知漏れに対しては行政指導が中心でした。
しかし、法改正の施工後は通知義務違反に対して直接的な罰則が適用されることになります。
これにより企業には形式的な書類整備に留まらない、実効性のある運用体制の構築が求められます。

①情報の確実な伝達(譲渡・提供者)
メーカーや卸売業者は、容器へのラベル表示とSDSの交付義務を厳守しなければなりません。
また、成分や危険性に変更が生じた際の「再通知」も義務化(これまでは努力義務)されるため情報の鮮度管理が不可欠です。

②リスクアセスメントの徹底(ユーザー企業)
化学物質を使用する企業は受け取ったSDS情報をもとにリスクアセスメントを実施し、その結果に基づいた「ばく露提言措置(適切な保護具の選定等)」を講じる義務があります。


5.事業者が取り組むべき実務のポイント

今回の法改正は形式的な書類整備ではなく「実効性」が求められています。
以下のフローを再確認してみてください。

1.取り扱う化学物質の把握

事業場内で取り扱うすべての化学物質をリストアップし、一覧を作成したうえでリスクアセスメント対象物を特定しましょう。
また、対象物に限らず、すべての化学物質について危険性・有害性を確認することが重要です。

2.体制の整備

リスクアセスメント対象物を製造・取扱い・譲渡・提供する事業場では「化学物質管理者」の選任が、保護具を使用する事業場では「保護具着用管理責任者」の選任が必要です。
これらの管理者は選任事由が発生した日から14日以内に選任しなければならず、あわせて必要な権限を付与するとともに関係労働者への周知を行う必要があります。

3.リスクアセスメントの実施

リスクアセスメント対象物を取り扱う事業者には、リスクアセスメントの実施が求められます。
具体的には、
① 化学物質による危険性・有害性を特定する
② 特定した危険性・有害性に基づきリスクを見積もる
③ リスクの見積もり結果を踏まえ、リスク低減措置(リスクを減らすための対策)を検討する

という一連の流れで実施します。

4.その他のポイント

上記以外にも自律的な化学物質管理の実施のために確認しておくべきことは
・ラベル表示、SDSの交付
・有害性等の掲示
・労働災害時の対応

などが挙げられます。

(参考)
職場の化学物質管理ケミサポ「事業者が実施すること」
https://cheminfo.johas.go.jp/try.html


6.環境改善のご相談はぜひ田崎設備まで!

今回の法改正により、適切な換気設備(局所排気装置等)の導入や維持管理はより一層重要なものとなりました。
当社では有機溶剤を使用する現場に対して、局所排気装置を設計・施工した実績が多数ございます。




お客様のご要望に合わせて作業性や工程を変えることなく設計・施工を行うことができるのが田崎設備の強みです。
また、メンテナンス法定点検にも対応しております。

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(参考)

・厚生労働省「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律(令和7年法律第33号)」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/anzen/an-eihou/index_00001.html

・厚生労働省 労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律(令和7年法律第33号)の概要(PDF)
https://www.mhlw.go.jp/content/11300000/001497667.pdf

・厚生労働省 労働安全衛生法及び作業環境測定法改正の主なポイントについて(PDF)
https://www.mhlw.go.jp/content/11300000/001513749.pdf

・厚生労働省「化学物質による労働災害防止のための新たな規制について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000099121_00005.html

・厚生労働省 令和4年度「職場における化学物質規制の理解促進のための意見交換会」
『労働安全衛生法の新たな化学物質規制について〜ラベル・SDS・リスクアセスメントを中⼼に〜』(PDF)

https://www.mhlw.go.jp/content/11305000/001043125.pdf

・職場の化学物質管理 ケミサポ
https://cheminfo.johas.go.jp/
独立行政法人労働者健康安全機構 独立安全衛生総合研究所が運営するサイトです。
主に化学物質管理者として活躍される方向けに、この新たな化学物質規制に対して事業者が自律的化学物質管理を行うにあたって改めて確認すべきこと、準備を進めるべきことが分かりやすく掲載されています。
(※2026年3月31日より更新停止中)