化学物質管理者とは、工場や研究室などの職場で使用される化学物質による労働災害(中毒や爆発など)を防ぐために、化学物質の適切な管理や安全対策を統括する責任者のことです。
日本の労働安全衛生法の改正により、2024年4月1日から選任が完全に義務化されました。

法律の方向性が「国が細かく規制する」形から「企業が自律的に管理する」形へと大きくシフトしたため、その現場のリーダーとしてこのポジションが作られました。

1.主な業務内容

化学物質管理者は職場での化学物質の扱いについて、事業者、保護具着用管理責任者、作業主任者、産業医等の関係者と連携して以下のような技術的な事項を管理します。

・ラベルやSDS(安全データシート)の確認、対応
 仕入れた化学物質に危険性を示すラベルがあるか、取扱説明書(SDS)があるかを確認します。

・リスクアセスメントの実施管理
 「この化学物質をこの作業で使うとどれくらい危険か?」を評価(リスクアセスメント)します。

・ばく露防止対策の立案、実施
 労働者が有害な物質を吸い込んだり皮膚に触れたりしないよう、換気装置を設置したり、防毒マスクや手袋などの保護具を選定したりします。

・労働者の教育や指導
 現場の作業員に対して、正しい扱い方や緊急時の対応を指導します。

・労働災害が発生したときの対応

2.義務化の対象となる事業場

「リスクアセスメント対象物質」を製造、または取り扱うすべての事業場が対象です。
工場の規模(従業員数)や業種は関係ありません。
大企業だけでなく、少人数の町工場や研究所、あるいは化学物質を扱う特定のサービス業であっても、対象の物質を使っていれば選任しなければなりません。

※補足:リスクアセスメント対象物質とは?

労働安全衛生法で「危険性・有害性がある」と指定されている化学物質のことで、現在は数千物質にもおよびます。
一般的な有機溶剤(シンナー等)や強酸・強アルカリ、特定の塗料や接着剤なども広く含まれます。

リスクアセスメント対象物質については以下の記事もご参照ください。
有機溶剤と特定化学物質(特化物)の違い

3.資格や選任の要件

「化学物質管理者」は国家資格ではなく、免許証が交付されるようなものではありません。
化学物質管理者の選任要件は、「化学物質管理者の業務を担当するために必要な能力を有するもの」であり、基本的に事業者の裁量によります。
ただし、事業場のタイプ(製造しているか、単に使っているだけか)によって選任の資格要件が異なります。

事業場のタイプ選任の要件備考
化学物質を「製造」する事業場厚生労働省が定める「専門的講習」
(2日間・計15時間など)の修了が必要
メーカーや、自社で対象物質を合成・調合して製品を作る工場などが該当します。
化学物質を「使用・取り扱う」だけ
の事業場
資格要件は特になし
(事業者が「能力がある」と認めた人)
ただし、専門知識が必要なため、国が定める「基礎的な講習」(1日間・計9時間など)
の受講が強く推奨されています。

専門的講習のカリキュラムは告示で示されており、任意の外部専門機関の講習を受講することができます。
カリキュラムを満たしていれば事業場内教育による選任も可能です。

厚生労働省から化学物質管理者を育成するためのテキストが公表されています。
リスクアセスメント対象物製造事業場向け化学物質管理者テキスト(令和5年(2023年)3月公表)(PDF)


講習は次の機関で実施されています。詳細は当該機関にお問合せください。
・中央労働災害防止協会https://www.jisha.or.jp/
・日本規格協会https://webdesk.jsa.or.jp/

(引用:職場の化学物質管理ケミサポ『2-1.化学物質管理者の選任』)
https://cheminfo.johas.go.jp/step/2-1.html

4.【重要】法改正に伴う新たな体制

令和7(2025)年より段階的に施行される労働安全衛生法の改正により、化学物質を取り扱う事業場では「化学物質管理者」の選任が義務化されました。
・化学物質管理者:事業場全体の化学物質管理の「戦略・方針」を決定する司令塔
・有機溶剤作業主任者:決定された方針をもとに、特定の現場で「実務・監視」を行う指揮官

これからはこの両者が連携して「自律的な管理」を行うことが法律によって強く求められます。
詳細な違いについては以下のリンクをご参照ください。

「有機溶剤作業主任者と化学物質管理者の違い」


参考
・厚生労働省『化学物質による労働災害防止のための新たな規制について
~労働安全衛生規則等の一部を改正する省令(令和4年厚生労働省令第91号(令和4年5月31日公布))等の内容~』

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000099121_00005.html