有機溶剤とは、物質を溶かす性質をもつ常温で液体の有機化合物を言い、蒸発しやすく脂肪を溶かすことから誤った取り扱いをすると皮膚や呼吸器を通して体内に吸収され急性中毒などの健康障害を発生させる物質をいいます。
有機溶剤中毒予防規則(有機則)で定められている54種類と特定化学物質障害予防規則(特化則)で定められている2種類が規制の対象となります。

有機溶剤中毒予防規則の対象となる有機溶剤一覧

■第1種有機溶剤

物質名CAS No.沸点参考IARCがん原性指針
クロロホルム67-66-362℃2B
四塩化炭素56-23-577℃2B
1,2-ジクロルエタン(別名二塩化エチレン)107-06-284℃2B
1,2-ジクロルエチレン(別名二塩化アセチレン)540-59-060℃  
1,1,2,2-テトラクロルエタン(別名四塩化アセチレン)79-34-5146℃3 
トリクロルエチレン79-01-687℃2A 
二硫化炭素75-15-046℃  

■第2種有機溶剤

物質名CAS No.沸点参考IARCがん原性指針
アセトン67-64-156℃  
イソブチルアルコール78-83-1108℃  
イソプロピルアルコール67-63-083℃3 
イソペンチルアルコール(別名イソアミルアルコール)123-51-3132℃  
エチルエーテル60-29-735℃  
エチレングリコールモノエチルエーテル(別名セロソルブ)110-80-5135℃  
エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(別名セロソルブアセテート)111-15-9156℃  
エチレングリコールモノ-ノルマル-ブチルエーテル(別名ブチルセロソルブ)111-76-2171℃3 
エチレングリコールモノメチルエーテル(別名メチルセロソルブ)109-86-4125℃  
オルト-ジクロルベンゼン95-50-1180℃3 
キシレン1330-20-7138℃3 
クレゾール1319-77-3191℃  
クロルベンゼン108-90-7132℃  
酢酸イソブチル110-19-0118℃  
酢酸イソプロピル108-21-489℃  
酢酸イソペンチル(別名酢酸イソアミル)123-92-2142℃  
酢酸エチル141-78-677℃  
酢酸ノルマル-ブチル123-86-4126℃  
酢酸ノルマル-プロピル109-60-4102℃  
酢酸ノルマル-ペンチル(別名酢酸ノルマル-アミル)628-63-7149℃  
酢酸メチル79-20-957℃  
シクロヘキサノール108-93-0161℃  
シクロヘキサノン108-94-1156℃3 
1,4-ジオキサン123-91-1101℃2B
ジクロルメタン(別名二塩化メチレン)75-09-240℃2B
N,N-ジメチルホルムアミド68-12-2153℃3
スチレン100-42-5145℃2B 
テトラクロルエチレン(別名パークロルエチレン)127-18-4121℃2A
テトラヒドロフラン109-99-966℃  
1,1,1-トリクロルエタン71-55-674℃3
トルエン108-88-3111℃3 
ノルマルヘキサン110-54-369℃  
1-ブタノール71-36-3117℃  
2-ブタノール78-92-2100℃  
メタノール67-56-165℃  
メチルイソブチルケトン108-10-1117℃2B 
メチルエチルケトン78-93-380℃  
メチルシクロヘキサノール25639-42-3174℃  
メチルシクロヘキサノン1331-22-2163℃  
メチル-ノルマル-ブチルケトン591-78-6126℃  

■第3種有機溶剤

物質名沸点参考IARCがん原性指針
ガソリン38~204℃2B 
コールタールナフサ(ソルベントナフサを含む。)120~200℃  
石油エーテル35~60℃  
石油ナフサ30~170℃  
石油ベンジン50~90℃  
テレビン油149℃  
ミネラルスピリット(ミネラルシンナー、ペトロリウムスピリット、ホワイトスピリット及びミネラルターペンを含む。)130~200℃  

特定化学物質(特化物)とは、労働者に健康障害を発生させる(可能性が高い)物質として労働安全衛生法施行令別表第3で定められた化学物質をいいます。
有害性のレベルに応じて3つに分類されており、特化則で定められています。
第1類物質が7種類、第2類が60種類、第3類が8種類合計75種類が規制の対象となります。

有機溶剤はすべて液体ですが、特化物は液体とは限りません。

特化物は健康障害を発生させる可能性が高い物質として厚生労働省が認めたもので、局所排気装置のほか作業環境測定の定期的実施や用後処理装置の設置など規制が厳しくなっています。
特化物では環境測定への対応として室内全体の換気にも気を配る必要があります。
特に外付け式フードを採用する場合は注意が必要です。

今後は厚生労働省が健康被害との因果関係を認めた物質を特化物として増やしていく傾向にあります。
2022年春に新たに加わった溶接ヒュームのように、健康被害との因果関係が判明した物質に対していきなり特化物として規制対象になる方向です。

有機溶剤、特化物を合わせ129種類が有機則、特化則の規制を受けていますが、産業界には多くの化学物質が使われています。
規制を受けていない化学物質に変えることで局所排気装置の設置をしなくて済む場合もあるため、使用する化学物質の製品安全シートにて局所排気装置が必要か否かを確認する必要があります。

化学物質による労働災害防止のための新たな規制について

厚生労働省は化学物質による労働災害を防止するため、令和4年(2022年)5月31日に労働安全衛生法関係法令を改正し、新たな化学物質管理の制度が導入されました。2023年4月1日から段階的に施工されています。

日本では化学物質に起因した労働災害の発生件数が高止まりしており、その中には重篤な災害も含まれています。
また小規模事業場では法令順守が不十分な傾向にあり、対策の遅れが指摘されておりました。

日本で化学物質を原因とした労働災害が減らない理由は複数ありますが、化学物質の危険性・有害性の伝達を義務とする物質数が少なかったことが挙げられます。
そこで、今後も危険性・有害性を示すことが明らかになった物質に対して段階的に情報伝達を義務化していくことが定められました。

一方、欧米をはじめとする諸外国では化学物質管理は事業者が自律的に管理することがスタンダードになりつつあります。

自立的な管理(リスクアセスメント)とは危険性・有害性を示す化学物質の取扱い方法にあわせた対策を事業者自らが決めることを指します。
自律的な化学物質管理において事業者は、リスクアセスメントの結果に基づき、リスク低減措置を実施し、結果の記録保存と労働者への周知を行うことが求められています。

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(参考:厚生労働省ホームページ
『化学物質による労働災害防止のための新たな規制について~労働安全衛生規則等の一部を改正する省令(令和4年厚生労働省令第91号(令和4年5月31日公布))等の内容~』)



職場の化学物質管理 ケミサポ
https://cheminfo.johas.go.jp/
独立行政法人労働者健康安全機構 独立安全衛生総合研究所が運営するサイトです。
主に化学物質管理者として活躍される方向けに、この新たな化学物質規制の多くが施行される令和6年(2024年)4月1日までに、事業者が自律的化学物質管理を行うにあたって改めて確認すべきこと、準備を進めるべきことが分かりやすく掲載されています。

厚生労働省ホームページ 
『化学物質による労働災害防止のための新たな規制について
~労働安全衛生規則等の一部を改正する省令(令和4年厚生労働省令第91号(令和4年5月31日公布))等の内容~』
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000099121_00005.html